12. アミン類
キーポイント
アミン類はカールフィッシャー滴定における挙動に特異なものがあります。その挙動は塩基性によるものと、その他の化学的な妨害反応によるものとに分けられ、それぞれに応じて滴定条件を変更します。
まず塩基性についてはpKa値9.4のベンジルアミン(Ka=2.4×10-5)を目安として二組に分類します。
1)pKa9.4未満のアミン類:
標準操作法で問題なく滴定でき、その挙動は炭化水素に似ています。容量滴定法では一般用脱水溶剤に試料を溶かし直接滴定します。
電量滴定法では一般用電解液(陽極液)に試料を注入して直接滴定します。
2)pKa9.4以上の強塩基性アミン類:
その強塩基性に基づく妨害反応は水との反応以外にカールフィッシャー試薬を徐々に消費し、次のような現象を生じることによって知ることができます。
(1)終点の安定性が悪くなる。
(2)終点に到達しない。
(3)分析値が高めとなる。
この妨害を抑制するために、事前に酸を用いて中和を行い、カールフィッシャー滴定系を中性付近に保持しておく必要があります。通常、酸としてサリチル酸を用います。これはメタノールを主成分とする滴定溶剤とエステル化反応を殆ど起こさないことによります。酢酸を用いるときは15℃以下に冷却してエステル化反応を抑制しながらカールフィッシャー滴定をします。容量滴定法では脱水溶剤GEX(又はMS)50mlにサリチル酸10gを溶かして、滴定溶剤とします。
電量滴定法では一般用電解液(陽極液)100mlにサリチル酸10gを溶かしたものを電解液とします。
[注]サリチル酸10gはアミンの70mmolまでの中和ができますので、通常は試料70mmolに相当するだけ連続して測定できます。 |
電極反応物質、その他の妨害物質
アニリン、トルイジン、ジアミン類、アミノフェノールなどの電極反応物質は電量滴定法を適用することができません。
容量滴定法では滴定溶剤にメタノールを使用すると終点が不明瞭なもの、例えば、アニリンやトルイジンなどは、脱水溶剤CPを使用することによりカールフィッシャー滴定が可能となります。また、ジアミン類はヨウ素と反応する妨害を示し終点に到達しません。
参考文献:
(1)室井要他:分析機器 8, 374(1969).
「カールフィッシャー法によるアミン類の微量水分の定量」
(2)加藤弘眞他:分析化学 34, 805(1985).
「カールフィッシャー電量滴定法によるアミンの化合物中の水分の定量」
標準操作法により測定できる物質例:
ピリジン、2-アミノピリジン、2-ピコリン、キノリン、ピロール、イミダゾール、トリアジン、トリアゾール、インドール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、N, N-ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、2-ピリジルエタノール、4-ピリジルエタノール。
酸による中和が必要な物質例:
トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジペンチルアミン、ヘキシルアミン、N, N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、エタノールアミン、N,
N-ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリス-(ヒドロキシメチル)-アミノメタン。
メタノールを含まない滴定溶剤であることが必要な物質例:
アニリン、トルイジン、アニシジン、ナフチルアミン。
[測定例]
(1)容量滴定法−サリチル酸による中和
使用する試薬:カールフィッシャーSS-Z(又はSS)
脱水溶剤GEX(又はMS)約50ml
サリチル酸 約10g
物 質 名 |
脱水溶剤 |
試料量(g) |
測定値(mg) |
水分(%) |
n-ブチルアミン |
一般用+サリチル酸 |
0.7335 |
1.45 |
0.20 |
ジエチルアミン |
〃 |
0.7234 |
1.02 |
0.14 |
ジエタノールアミン |
〃 |
1.0240 |
2.62 |
0.26 |
ピペリジン |
〃 |
0.9034 |
1.00 |
0.11 |
トリ-n-ブチルアミン |
〃 |
1.6367 |
1.27 |
0.077 |
ジイソプロピルアミン |
〃 |
1.5010 |
1.21 |
0.081 |
2-メチルアミノピリジン |
〃 |
1.052 |
0.47 |
0.12 |
トリエタノールアミン |
〃 |
1.124 |
0.70 |
0.17 |
N-エチルモルホリン |
〃 |
0.905 |
0.88 |
0.26 |
N, N-ジメチルベンジルアミン |
〃 |
0.900 |
1.55 |
0.17 |
N-エチルアニリン |
〃 |
0.958 |
0.55 |
0.057 |
アニリン |
ケトン用 |
1.0185 |
1.49 |
0.15 |
[注]サリチル酸の結晶はかさばり取り扱いにくいので予め10gを空の滴定フラスコに入れておき、それへ脱水溶剤GEXを加えます。サリチル酸は容易に溶けますからその後、カールフィッシャー試薬を滴下して無水状態にし本滴定を行います。
(2) 電量滴定法
使用する試薬:アクアミクロンAX (又はAS)100ml
又はサリチル酸10gを添加
アクアミクロンCXU 5ml
物 質 名 |
pKa |
試料量(g) |
測定値(μg) |
水分(%) |
i-プロピルアミン |
10.6 |
0.694 |
321 |
463ppm |
n-ブチルアミン |
10.6 |
0.732 |
2440 |
0.333 |
n-ヘキシルアミン |
10.6 |
0.766 |
496 |
648ppm |
ジエチルアミン |
11.0 |
0.707 |
989 |
0.140 |
ジ-i-プロピルアミン |
11.1 |
0.722 |
931 |
0.129 |
ジ-n-ブチルアミン |
11.3 |
0.760 |
3231 |
0.425 |
トリエチルアミン |
10.7 |
0.726 |
5582 |
0.769 |
トリ-n-プロピルアミン |
10.7 |
0.753 |
1159 |
0.154 |
トリ-n-ブチルアミン |
10.9 |
0.778 |
626 |
805ppm |
3-ジメチルアミノプロピオニトリル |
6.9 |
0.870 |
2635 |
0.303 |
シクロヘキシルアミン |
10.6 |
0.867 |
1741 |
0.201 |
モノエタノールアミン |
9.5 |
0.269 |
614 |
0.228 |
ジエタノールアミン |
9.0 |
1.097 |
1199 |
0.109 |
トリエタノールアミン |
7.8 |
1.124 |
1870 |
0.166 |
2-ジエチルアミノエタノール |
9.4 |
0.884 |
2757 |
0.312 |
1,3-ジアミノプロパン |
|
0.218 |
1471 |
0.675 |
1,2-プロパンジアミン |
|
|
測定不可 |
|
ピロリジン |
11.3 |
|
測定不可 |
|
ピペリジン |
11.2 |
0.861 |
3971 |
0.461 |
4-ベンジルピペリジン |
10.3 |
0997 |
6314 |
0.633 |
ピペラジン |
|
0.200 |
210 |
0.105 |
ピロール |
|
0.967 |
3104 |
0.321 |
N-メチルモルホリン |
7.7 |
0.905 |
1907 |
0.211 |
ベンジルアミン |
9.4 |
0.268 |
452 |
0.169 |
N,N-ジメチルベンジルアミン |
8.9 |
0.900 |
1042 |
0.116 |
2-アミノ-3-ピコリン |
6.7 |
1.031 |
2621 |
0.254 |
2-メチルアミノピリジン |
6.7 |
1.052 |
1280 |
0.122 |
o-トルイジン |
4.4 |
|
測定不可 |
|
m-トルイジン |
4.7 |
|
測定不可 |
|
p-アニシジン |
5.3 |
|
測定不可 |
|
m-アミノフェノール |
4.2 |
|
測定不可 |
|
ジメチルアミノメチルフェノール |
7.9 |
0.986 |
1606 |
0.163 |
N,N-ジメチル-p-トルイジン |
5.6 |
0.937 |
494 |
527ppm |
アニリン |
4.6 |
|
測定不可 |
|
N,N-ジエチルアニリン |
6.6 |
0.938 |
102 |
109ppm |
o-クロロアニリン |
2.6 |
1.213 |
361 |
298ppm |
2-アニリノエタノール |
4.0 |
1.085 |
2614 |
0.241 |
|