7.アルデヒド類

キーポイント
   アルデヒド類はカールフィッシャー試薬及び滴定溶剤中にメタノールが含まれていると、次式のようにメタノールと反応(アセタール結合)して水を生成する妨害を起こします。
      RCHO+2CH3OH → RCH(OCH3)2+H2O
そのため終点が不安定になる、終点に到達しない、また水分が高めになるなどの現象が見られます。
   その他にカールフィッシャー試薬成分(二酸化硫黄)と次式のように水を奪う妨害反応(重亜硫酸付加)も起こし、低めの水分値を与えます。
      C5H5N・SO2+RCHO+H2O → C5H5N・HSO3CH(OH)R
   更にアルデヒド類はケトン類よりも反応性が強く、個々のアルデヒドにより反応速度が非常に異なります。従ってアルデヒド類の水分測定はこのような難しい問題を抱えていますので正確な分析値を得るのは困難です。
   一般には次のような対策をとることにより、カールフィッシャー滴定を行うことができます。
   1)メタノールを含まないカールフィッシャー試薬と脱水溶剤を用います。
   2)水を奪う反応を抑えるため、できる限り少量の試料を加えて滴定します。
   3)アセトアルデヒドは活性が強いため特別な条件下で滴定します。(後述)。
   電量滴定法は電解液中の二酸化硫黄が妨害して低めの水分値を与えますので、一応終点に到達しても正確な分析値が得られているとはいえません。その適用は難しいといえます。また、アセトアルデヒドには全く適用できません。

参考文献:

室井要他:Bull. Chem. Soc. Japan, 38,1176 (1965).
「The Determination of the Water Content in Acetaldehyde by means of the Karl Fischer Reagent」

直接滴定ができる物質例:

   次の不活性カルボニル化合物は一般用脱水溶剤に試料を溶かして直接測定できます。
      ホルムアルデヒド
      クロラール
   しかし、これらは常温(25℃以上)でメタノールと徐々に反応する傾向がありますから、ケトン用脱水溶剤に試料を採取して滴定する方法をお薦めいたします。

[測定例]

(1) 容量滴定法

使用する試薬: カールフィッシャー SS-Z(又はSS)
                    脱水溶剤KTX(又はCP)25〜50ml

物 質 名 脱水溶剤 試料量(g) 測定値(mg) 水分(%)
n-ブチルアルデヒド ケトン用 0.4020  3.56 0.886
イソブチルアルデヒド 0.3952  0.96 0.243
クロトンアルデヒド 0.4239  0.67 0.158
プロピオンアルデヒド 0.2014  7.36 3.65
ホルマリン 一般用 0.0328 17.42 53.1
抱水クロラール 0.1752 19.27 11.0

[注]脱水溶剤KTXはカールフィッシャー試薬SS-Zとの、脱水溶剤CPはカールフィッシャー試薬SSとの組み合わせでご使用下さい。


アセトアルデヒド中の水分定量法


   アセトアルデヒドは妨害反応が激しいので、ピリジン・二酸化硫黄を含まない脱水溶剤PPを用い次の操作方法により行います。
   水分の多いアセトアルデヒドは試料採取量0.2mlでも測定できますが、約0.2%以下の微量水分の測定には、この方法は試料採取量が少なすぎて適しません。従って微量水分を測定する場合は、図の装置を用い脱水溶剤PP 5mlに試料5〜10mlを加え、試料を乾燥窒素で揮散させながら滴定します。


1)試料採取方法

   予めよく乾燥した注射器(容積5〜10ml、針の長さ約10cm)の針の先にシリコンゴムの小片をつけ、乾燥ポリエチレンの袋に入れて冷蔵庫に保存します。次によく冷えた注射器と、予め冷蔵庫に保存した試料容器(容器には試料採取用の金属ストッパーをつけておく)を取り出し、容器の金属ストッパーに注射器を差し込んで試料を取り、注射器内を2回試料で洗い、3回目に試料を5〜10ml取ります。


2)滴定法

   図の滴定フラスコ(容積約50ml)に脱水溶剤PP 5mlを入れて、20〜25℃の水浴につけます。Eの3方コックから約0.9l/minの流速で乾燥窒素を滴定フラスコに通しながら、カールフィッシャー試薬SSを終点まで滴下します。脱水溶剤PPのかき混ぜと窒素の送入を止め、三方コックEの一方の口から注射器を差し込み、針の先を脱水溶剤PPの液面につけて、素早く試料を注入します。脱水溶剤PPのかき混ぜと窒素の送入を開始すると同時にカールフィッシャー試薬SSで、蒸発するアセトアルデヒドを追い出しながら、終点まで滴定します。

A: 滴定フラスコ、50ml
B: 水浴
C: マグネチックスターラー
D: 白金電極
E: 三方コック
F: 窒素乾燥筒(五酸化燐)
G: KF試薬SS
H: 標準水メタノール用ビュレット
I: 乾燥管
J: 窒素出口
K: 試料採取口
図19 アセトアルデヒド水分滴定装置  


実施例:

No 採取量(ml) 測定値(ml) 測定値(mg)
(mg) (%)
1 1 0.14 0.42 0.053
2 3 0.41 1.23 0.052
3 5 0.65 1.95 0.050
4 7 1.06 3.17 0.057
5 10 1.32 3.95 0.050

[注]カールフィッシャー試薬の力価:3.00mg/ml


(2) 電量滴定法

使用する試薬: アクアミクロンAKX           100ml
                      アクアミクロンCXU               5ml

物 質 名 試料量(g) 測定値(μg) 水分(%)
ベンズアルデヒド 0.5205   343 660ppm
サリチルアルデヒド 0.6257   751 0.120
3-フェニルプロピオンアルデヒド 0.5435 1467 0.270
抱水クロラール 0.0441 4916 11.1